たよりにしてまっせ

 

 日曜日の昼下がり。今日は久々にOFFだ。
特に何をするでもなくボーっとギターを抱えソファーに座りこんでいた。
足元にはケンシロウが寝転んでいる。
 適当にギターを掻き鳴らしながらあいつのことを考える。
楽屋でふと見せた表情。

 今日、あいつは舞台に出ている。
貰ったチケットは明日のものだ。

「光一…」
 急に切なくなって名前を呼んだ。
相方の名前にピクリとケンシロウの耳が反応を示す。
薄く目を開け、俺の方を見ている。
「どうしたん?」
 ひょいと抱きかかえてやる。
「ふぁっ・・・くすぐったいよ、ケンシロウっ」
 彼なりに気遣ってくれてるらしい。
「なぁ、俺間違ってるんかな?」
 堪えられない。
あいつは他の人に笑顔を見せる。
もちろん、それは俺もやってきていることだけど…。
辛い…。

「光一ぃ・・・」
 考え始めたらキリがない。
鳴らないケータイ。
こんなにも恨めしく思ったのは始めてかもしれない

  再びギターを掻き鳴らす。
泣いてるような音が部屋中に溢れる。

「あぁ、お前も悲しいんやな?」
零れる泪のようにギターの音はいつまでも溢れ続ける。

 あれからどの位時間が過ぎただろう。
ケータイに『着信アリ』の表示がついていた。
履歴を調べる。
光一からだ。
 慌ててかける。
無機質な呼び出し音が鳴り響く。
『もしもし』
「こ・・・っ」
 動揺してきちんとしゃべれない。
『剛?』
「うん」
 それっきり黙りこんでしまう。
『剛?どうした?』
 心配そうに光一が尋ねてきた。
「何でも無い」
『そか。ならえぇねん』
「うん」
『今舞台終わってな。それで、声聞きたくなってん…』

 その後他愛も無い会話が続いた。

気が付くと真っ暗になっていた。
『ほなら、明日ちゃんと顔出してや』
「分かってるわ」
『剛はたまに顔出さんと帰るからなぁ…』
「気ぃ遣ってんねんで?」
『分かってる』
「じゃぁ、明日も頑張りや」
 そう云って電話を切る。

 君がいるから僕はこうして笑っていられる。
君がいるから僕は辛い思いをする。
何があっても何をしてても俺は君が大好きやから。
君の隣にいたいねん。

 

たよりにしてまっせ/「A album」収録曲