太陽のあたる場所 後編
「トニセン入りまーす」 「「「お早う御座いますv」」」 ニコッと営業スマイルを浮かべ、スタッフ等に挨拶する。 「「「かわい〜vv」」」 健に気づき、女性スタッフから黄色い悲鳴が上がった。 「え、坂本さんの子供ですか?」 「三宅くん頑張ったんですねv」 皆、云いたい放題だ…。 「いや、普通に違うから…ι」 「ボク、名前何ていうの?」 俺の話しなんて聞いちゃいねぇ…ι 「健二」 「やっぱり二人の子供ですか?」 「だから違うって…ι」 「健ちゃんの親戚だってさv」 そう云って長野が周りを宥める。 「俺等も二人の子供だと思ったんだけどさ〜」 ヘラヘラと井ノ原が笑った。 「いや、普通に無理だから…ι」 「スタンバイお願いします」 「健二くんは私たちが見てますねv」 俺の意見はまたしてもスルーされてしまった…。 スタッフ等に遊ばれる(?)健。 気が気じゃない。 「坂本さん。子供が可愛いのは分かりますけど、こっち見て下さい」 …駄目だしされたι つか 「俺の子供じゃねぇから…ι」 「次こっちお願いします」 …またスルーされたι 俺、遊ばれてね?ι 「はい、OKでーす」 どうにかこうにか撮影を終え、足早に健に近づき 「帰るぞ」 とだけ云い、手首を掴むとスタジオを後にした。 「寂しかったんだね〜」 背後から井ノ原の含み笑いが聞こえた。 「坂本くん!」 半分俺に引きずられるようになりながら必死に健が俺を呼ぶ。 「坂本くんってば!!」 「何」 「ちょっ、痛い」 慌てて手を離し、健の方へ向き直る。 「ごめん…」 「どうしたの?」 心配そうに俺を見上げる。 「何でもない…」 妬いてるのを見透かされそうでスッと目を逸らす。 「…」 「…」 重い沈黙。 「帰ろ?」 俺の気持ちに気づいたのか、気づかないのか…。 そう云って健がそっと俺の手を握った。 いつの間にか耳に馴染んでしまった俺等の曲をかけながら家まで車を走らせる。 軽く開けた窓から緩やかに入ってくる風が頬に心地よい。 助手席には足を揺らし歌を口ずさむ健が座っている。 「はぁ…」 無意識のうちにため息が漏れた。 健がチラッと俺に目をやり、再び窓の外に視線を戻す。 「いつまでこのままなんだろうね…」 窓の外を眺めながらポツリと健が呟いた。 道の端に車を止める。 「どうしたの?」 健が心配そうに俺を見つめる。 「…ごめん」 俺はそれだけしか云えなかった。 「ん?さっきのこと、まだ気にしてるの?」 キョトンと首を傾げる健。 「いや、そうじゃなくて…」 歯切れの悪い返事しか出来ない。 「健が縮んだの…」 「何で?坂本くんの所為じゃないよ?」 にっこりと微笑み、首を傾げる。 「健…」 クシャっと頭を撫で 「もし、お前がずっとこのままでも…、俺は…」 「坂本くん」 俺の言葉を遮るように健が名前を呼んだ。 「ありがとう」 そう云って微笑んだ健の目には、うっすらと…だけど、確実に…涙が浮かんでいた。 「健」 耐えきれずに思い切り抱きしめる。 元々細かった健の身体が尚更細く小さくて…。 「坂本くん…」 小さな小さな手で俺の頭を撫でる健。 「っく…う…っ」 涙が止まらない。 「健…。健…」 何度も何度も名前を呼んだ。 「俺、ずっと面倒見るから」 泣きはらした目で真っ直ぐ前を見つめ、強く呟いた。 「うん」 健は優しく微笑んだ。 「うわ〜っ!!」 けたたましい健の叫び声で目が覚める。 「ん…っ」 眠い目を擦りながら体を起こす。 「どうした?」 まだ半分目を閉じたまま健を探す。 ベッドの下に健が… 健… 健が… 「治った…」 そう云ってポカンと口を開けて座り込む健の姿があった。