太陽のあたる場所 前編

 

「うわぁっ!!」

キッチンで朝食を作っていると、突然、寝室から悲鳴に似た叫び声が聞こえた。

「健っ!?」

慌てて寝室へ行く。


「どうした!?」
返事を待たず勢い良くドアを開けた。

「坂本くん…」

涙目でこちらを見る健…
健…
健!?
健がいない!!

さっきまで健がいたと思われるベッドの上には子供がちょこんと座っていた。


「…坂本くん」

子供が俺の名を呼んだ。

「まさか…」
ゴシゴシと目を拭い再びベッドの上を見る。

「け…健!?」
「…うん」
シュンと俯く健。

「な…何で…」
パクパクと口だけ動き声が出ない。

「分かんない」
そう云った健は涙目だ。

衝動的に健を抱き締めた。


「取り敢えず、キッチン行くか?」
「うん…」
優しく健の手を引いてキッチンへ向かった。



「はい」
朝飯を出してやる。
「ありがとう…」
ダボダボの服に身を包んだ健が呟いた。
「服…なんとかしなきゃな」
そう云って押し入れを漁る。



幸か不幸か健は1日オフで俺は半日オフ。

午前中のうちに何とかしなきゃ…。



「お、これは…」

見つけたのは実家から持ってきた俺が子供の頃に着てた服。
「俺エラいv」
自画自賛しながら健のもとに戻る。

「ちょっとデカいかもしれないけど…。俺が着てたやつ」

「ありがとう」

そう云って寝室へ駆けて行った。



「…坂本くんの匂い」

少し照れくさそうに健が云った。

「ぶっ」
思わず味噌汁を吹いてしまう。

「だ、大丈夫?」
慌てて駆け寄り、俺の顔を覗き込む。

「あ…あぁ…」

上目遣いヤバい…。
「でも、何でこんなになっちゃったんだろう…」

あ、今胸がチクリとした…。

「坂本くん、何か知らない?」

「…知らない」
「ホント?」
直感的に何かを感じたのだろう。

「ホントだよ…ι」
「ふーん」

まだ納得いかないといった表情で俺を見る。

「まぁ、イイけど…」

「それより、仕事」
「はっ、こんなことしてる場合じゃない!」

慌てて片付ける。



「…健、どうする?」
「ん?」
「付いてくる?ι」
「イイの?v」
ランランと目を輝かせる健。
「仕方ないだろ…ι」
力無く呟いた。

本当は仕事をしてるところを見られたくないんだけど…。

この際仕方ない。

一人で置いておくのも心配だし…。

「但し、バレないようにしろよ…」
「うんv」

健が力強く頷いた。


「おはよ…」
弱々しく楽屋のドアを開けた。

「おはよー」
「はよー」
既に長野と井ノ原がいた(今日はトニセンで仕事)。

俺の後ろからひょっこりと健が顔を出す。

「かーわーいーvV」
井ノ原が目敏く見つけ騒ぐ。
「隠し子?w」
長野が意地悪く微笑んだ。

「違うι」

「ねぇねぇ、この子健ちゃんに似てない?v」

井ノ原がワシャワシャと健の頭を撫でながら嬉しそうに云った。

「似てる似てるww」

長野も近寄って来てジッと健を見る。

「名前何てゆーの?v」

健と目線を合わせ井ノ原が尋ねた。

「え…とι」
困ったように俺を見上げる健。
「照れ屋さんだ〜vV可愛い〜vV」
はしゃぐ井ノ原。

「健…」
「「健!?」」
「健…二」

我ながら苦しいと思った。

「へぇ〜。健二くんか」

…アレ?
OKなの?ι

「親戚か何か?」
「健のな…」
「だから似てるんだね」
「奥さんの親戚なら旦那さんの親戚だよw」

からかうように井ノ原が云った。
「お前ウザいι」

「健ちゃん今日オフだよね?」
「あぁ…」
「健ちゃんどうかしたの?」
「ちょっと体調崩してな…」
「それでパパに付いて来たのかv」
「パパって…ι」


「健ちゃん〜一緒に遊ぼー♪」
云うが早いか…健の手を引きあっちへ行ってしまった。

て云うか健ちゃんって焦る…ι



「珍しいね…」
徐に長野が口を開いた。

「何が?ι」
「仕事場に人を連れてくるなんてさ」
「仕方ないだろι」
「でも、ホント健ちゃんに似てるね〜」
「親戚だからなι」
「健ちゃん、体調悪いって大丈夫なの?」
「軽い風邪みたいだから。今日1日寝かせてれば大丈夫だろ…」
「そっかw」
安心したように微笑む長野。
良心が少し痛んだ。

向こう側で井ノ原と戯れる健。
自然と目尻が下がる。

「坂本くんホントお父さんみたいw」
そんな俺を見ていた長野が人差し指を唇に当て、クスクスと笑う。

「からかうなよ…ι」
俺はたまらず苦笑を浮かべた。
「ごめん、ごめんw」
笑いをかみ殺しながら謝る長野。

「でも、ホント健ちゃんに似てるね」
「そうか?ι」
「うん。笑った顔とか」
「うーん…ι」

物凄く気まずい…。

「でも、何かイイね」
「ん?」
「子供できたみたいじゃん?」
「あぁ〜…」
「何?その返事」
「いや…別にι」
「ふ〜ん」
長野が訝しげに俺の顔を覗き込む。
「何か隠してない?」
長年一緒にいるだけあってなかなか鋭い。
「いや…ι」
「健ちゃんのこととかさ…」
「何もないからι」
「それならイイけど…」

長野は意外にアッサリと引き下がった。
「お…おぅ」
アッサリ引き下がったことに戸惑いながらも、安堵する。



「スタンバイお願いします」
そんなことをしていると、スタッフに声をかけられた。

「健〜」
「何〜?」
名前を呼んだ後激しく後悔した。
これじゃバレてしまう…
「おいで〜」

誤魔化すようにちょいちょいとおいでおいでをする。

健がポテポテと小走りで近寄ってきて
「な〜に?」
上目遣いで俺を見つめる。

うっ…か、可愛い。
「俺、仕事だけど…スタジオ一緒に来る?」
「行ってイイの?v」
普段は絶対に付いてこらせないだけに、健の喜びは大きい。
「うん…ι」
「じゃ、行くv」

かくして、トニセンの二人と健を従えてスタジオ入りをした。