机の上に山積みになった書類。
床にまで散らばった資料の数々。
「足の踏み場もないってのはこー云う事を云うんだろうな…」
 フッと自嘲気味に笑う。
「全く、秘書が無能だと困るよ」
 昨日までここで俺の秘書をしていた奴の顔を思い浮かべる。
「社長、新しい秘書の方がお見えになれれました」
 振り返ると運転手兼秘書代理の松岡が立っていた。
「あぁ、通していいよ」
 ふぅと溜息をつく。
「お疲れですか?今日は帰ってゆっくりお休みになられた方がよろしいかと。秘書の方には明日お会いくだされば良いですし…」
「大丈夫だ。それに明日は忙しい」
 知らず知らず厳しく云い返す。
「すいません。出来過ぎたことを云いました」
「いや、こっちが云い過ぎた。すまない。通してくれ」
 本当に疲れている。
ここ数日慣れない資料整理の所為でロクに眠ってもいなかった。
そのことを松岡は敏感に感じたのだろう…。
「どうぞ、こちらへ」
 松岡が案内してきた新しい秘書はオズオズと部屋に足を踏み入れた。
「あ、は、はい。失礼します」
「ようこそ。すまないね、今散らかってて…あ、適当に座って」
 座ってと云ったものの応接用のソファーにも膨大な資料が置かれている。
「立ち話も何だ、下に移動しようか」
「いえ、あの、大丈夫です」
 余程珍しいのだろう。キョロキョロと辺りを見回している。
「取り敢えず、自己紹介でもしておこうか。俺はここの社長の咲良晃(さくら あきら)。で、こっちは運転手の松岡亮太(まつおか りょうた)だ」
 自分のついでに運転手の紹介もしてやる。
「あ・・・えっと・・・僕は菅野沙良(かんの さら)です。よろしくお願いします」

 そう云うと彼は深深と頭を下げた。
「早速明日から頼むよ。スケジュール帳は松岡が持ってるから明日の朝にでも貰ってくれ」
 そこまで云うと俺は背を向けた。
「では、失礼します」
 松岡が菅野を連れて部屋を出ようとする。
「そうだ、松岡」
 振り向きもせず声をかける。
「はい?」
「暫くは菅野くんのサポートを頼むよ」
「かしこまりました」
 それだけ云うと彼等は部屋から出ていった。
 そして俺はまた書類と資料の中に一人で埋もれる。

「社長?」
 2時間後、松岡が入ってきた。
「ん…あぁ〜、寝てたみたいだな」
 机の上の資料に目を通していたはずなのに、いつのまにか寝てしまっていた。
「やはりお疲れみたいですね。もう、今日はお帰りになられた方が…」
 さっきのこともあり、語尾がだんだん小さくなっていく。
「そうするよ」
 余程意外だったのだろう。普段は滅多に崩れる事のない松岡の表情が驚きの色に変わる。
「どうした?」
 わざとからかってやる。
「いえ、意外でしたので…」
「素直だな〜」
 スっと立ち上がり松岡の肩に手をかける。
「しゃ・・・ちょ・・・」
「もう仕事は終わった」
 そこまで云って松岡を引き寄せる。
「疲れた…」
 そのまま肩に顔を埋める。松岡の方が少し背が低いのでちょっと辛い体勢だ。
「少しこのままで良いか?」
「ダメだと云ってもやるんでしょ?」
「まぁねv」
「ホント無理し過ぎなんだよ…」
 耳元で松岡が囁いた。
「ん、分かってる」
「まったく、心配しているこっちの身にもなってくれないと…」
「ん…」
「オマエに何かあったら俺が怒られるんだぞ?」
「ん…分かってる」
「晃…俺…」
 松岡が何か云いかけたその時
「あのぉ、松岡さん…」
 そっとドアが開き菅野が覗きこんできた。
無意識のうちに警戒心をムキだしにしたらしい。
菅野がそろそろと後退っていく。
「社長、もう大丈夫ですか?」
 松岡は一瞬で仕事用の顔になりそっと俺を引き離した。
「あ、あぁ。すまなかった」
 俺もどうにか仕事用に戻る。
「どうしました、菅野君?」
 くるりと向き直りそのまま外に出て行った。
5分後…。
「社長、もうお戻りになられますか?」
 松岡が顔だけ覗かせる。
「ん…あぁ、帰る」
 我ながら情けない声を出したなと思った。
「お忘れ物のないよう」
 しかし、松岡は気にせずにスタスタと下へ下りて行く。
「車を出して来ますので入り口でお待ち下さい」
 俺と菅野を残し部屋を後にする。
なんとなく気まずくなって、俺から菅野に話しかける。
「菅野くんて、なんでウチの会社にしたの?」
 いくら話題がないからといって社長がコレでは不味い。
しかし、思った時には既に遅かった。
「えっと…」
 菅野が困ったように首を傾げる。
「あぁ〜、ゴメン忘れて」
「え、は、はい」
 そうこうしてるうちに車が目の前に止まる。
「あの・・・コレってフェラーリってやつですよね?」
 そう、目の前に止まったのは真っ赤なポルシェ(分かる人いるかな…)ならぬ、真っ赤なフェラーリだった。
「ん、別に珍しくも何ともないよ?」
 そう云ってさっさと乗りこむ。
「菅野さん、乗ってください。送りますから」
 窓から顔を出し(左ハンドル故正面に菅野がいる形になっている)乗車を促す。
「え、で、でも・・・」
「同じ方向ですし、大丈夫ですよ」
 滅多に微笑まない松岡が、あの松岡がニコニコと愛想よく菅野に微笑みかけている。
俺は少し腹が立った。
 しかし、ここで怒鳴ったら大人気ないのでグっと堪える。
「失礼します」
 どうやら松岡に丸め込まれた(失礼)らしい。オズオズと隣に座ってきた。
車の中は沈黙が流れる。
 菅野はずっと下を向いたままだ。
そういえば、こうやってじっくり見るのは始めてだ…。
 さっきも一緒にいたのに…。
整った顔立ち、弱冠長めの黒髪、まつげは長い方だろう。
 肌は白く透き通っている。
「あの…」
 俺の視線に気付いたようだ。
「あ、えっと…菅野くん幾つだっけ?」
 さっきの質問といい、これといい、これでは履歴書に目を通してないことがバレバレだ。
「23です」
「俺より3つ下なんだ?」
 なんともマヌケな反応である。
「そうみたいですね」
 しかし、菅野はにこっと微笑む。
「着きましたよ」
 つっけんどんな云い方で松岡がやや乱暴気味に車を止める。
「あ、有難う御座いましたっ」
 菅野は転がるように車から降りると深深と礼をした。
「明日からよろしく頼むよ」
 そう云い終わらないうちに松岡は車を発進させた。

「何むくれてんだよ?」
 二人きりになった車内。さっきから恐い顔をして押し黙っている松岡に声をかける。
「別に…」
 恐い形相で前方を睨んでいる。
「妬いた?」
 後ろから身を乗り出して松岡の顔を覗きこむ。
「何でだよ」
「あ〜ぁ、何か亮太が恐いな〜」
 わざと聞こえるように云って後ろに座る。
「誰の所為だと思ってんだよ」
 聞こえるか聞こえないか程度の声で松岡が囁いた。
勿論、俺には聞こえたワケだが。
「今日、泊まれるんだろ?」
 窓の外に目をやる。
「明日忙しいんだろ?」
「俺、仕事よりオマエだから」
 そう云って後ろから腕を回す。
「バッ、危ないだろっ!!」
「まんざらでもないくせに…」
「あ〜、うるさい、ウルサイ。事故ったら元も子もないんだからな!」
「分かってるって。じゃぁ、お泊り決定ねv」
「…」
 反論がないところを見ると向こうが折れたらしい。
俺は満足気に後部座席に身を預けた。

「オマエん家すげぇ久々…」
 家を目の前にして松岡が呟いた。
「ん?そうだっけか?」
「他の男連れこんでるからそうなるんだよ」
 別に嫌味を言うわけでもなく、松岡は云った。
「あ〜、はいはい」
 俺は聞こえない振りをしてスタスタと家の門をくぐる。
「大体、すぐに手ぇ出すから秘書が次から次に辞めるんだろ?まったく、もっと貞操をだなぁ」
「分かった分かった。もう良いよ」
 手を振って小言を止めさせる。
「まさか、オマエ、今度の…」
 無理矢理松岡の口を俺のそれで塞ぐ。
「ぷはっ…コラっ、晃っ…」
 基本的に俺より松岡の方が腕力があるからどうしても俺は押され気味になってしまう。
「亮太ぁ〜」
 わざと甘えた声を出してやる。
「アホか、オマエはっ!」
 普段ならコロっと墜ちるのに・・・今日は一括されてしまった。
「人が大事な話しをしている時にっ!!」
 ワナワナと松岡の拳が震える。
「りょ・・・た?」
 今まで見たことのない表情だった。
「今度のやつには手ぇ出すなよ」
 それだけ言い残すと松岡は家を出て行ってしまった。

「なんだよ、良太のアホ〜っ」
 一人になった部屋のベットの上に寝そべって枕を投げる。
「あ〜ぁ、何で分からんないかなぁ…」
 幼い頃からずっと一緒にいたのに…。
ずっと「オマエだけだ」って云ってたのに…。
そんなことを考えながら何時の間にか眠ってしまった。

「コラ、晃っ!早く起きろっ!!」
「んぁ〜…」
 亮太の声で目が覚める。
「りょた・・・何でいるの?」
 昨日帰ったはず…。
「朝だ!!迎えにきたんだよっ!」
 そう云うと勝手を知った様子でスーツやYシャツ、ネクタイなどなど仕事用の服を一式揃えて出してくれた。
「昨日のスーツのままじゃねぇか!まったくシワになるだろ!!」
「ん〜…」
 まだ脳が覚醒せずに上の空で返事をする。

「おはようございます」
 会社の入り口の前には菅野が立っていた。
「あ、オハヨう…」
 何故か妙に焦る。
「本日は〜」
 昨日は松岡が云っていた予定を菅野が読み上げる。
「〜です。社長?」
「あぁ、聞いてる、聞いてる。じゃぁ最初は会議室だな」
 スタスタと一人で会議室に向かう。
「社長」
 松岡が呼ぶ。
「何だ?」
「菅野さんを連れて行ってください」
 菅野が困ったように立ち尽くしていた。
「あぁ、スマン。行こうか?」
「はい」
 小走りに寄って来てテクテクと俺の後を必死で着いてくる。
「歩くの速いか?」
 少し速度を緩め菅野を振りかえる。
「いえ、大丈夫です」
 どう見ても大丈夫ではないのだが、彼は彼なりに頑張っているようだ。

 午前の予定が全て終わり俺等は社長室にやってきた。
ドアを開けると部屋は綺麗に片付けられていた。
「お帰りなさいませ」
 松岡がキチンと立っていた。
どうやら片付けていてくれたらしい。
「お昼はどうなさいますか?」
「外に出ようか?どうせ午後は企業回りだしな」
 そっと後ろを振り返る。菅野と目が合った。
「私はどちらでも良いですよ」
 そう云ってにっこりと微笑む。
「松岡、車を出して」
「はい」

「社内はだいぶ分かったかい?」
 相変らず下ばかり見つめている菅野に声をかけた。
「はい。今日行った場所はなんとなく分かりました」
 どうやらもの覚えが良いみたいだ。
「着きました」
 いつもは松岡と二人で入るレストランだが、今日からは菅野と二人で入る。
松岡は…何処か近くで昼飯を食べているのだろう。
 取り敢えず菅野の分も一緒に注文してやることにした。
「スイマセン、こう云うの慣れてなくて…」
 申し訳なさそうに呟く。
「別に気にすることはないよ。所で、これは勝手なルールなのだけど…」
 松岡と俺との間のルールを菅野に伝える。もちろん、松岡と俺の間にあるということは伏せて。
「仕事以外の時は社長も秘書も関係なしねv」
「えっ?」
「疲れるっしょ?」
「でも・・・」
「良いって。今までもそうだったんだしさ。気にすることはないよ」
「・・・」
 困ったように黙りこんでしまう。
「あ〜、じゃぁさ、せめて『社長』はなしにしようv」
「え・・・」
「ね。『咲良』でも『晃』でも良いからさ」
「は・・・はい」
「俺は『沙良くん』て呼ぶねv」
「分かりました」
 困ってはいるが嫌なワケではないらしい。
「咲良さん・・・」
 早速菅野が名前を呼ぶ。
「ん?」
「あの…失礼ですが、松岡さんとはどのような関係ですか?」
 予想外の質問だった。
「幼馴染だよ」
 嘘を吐く必要もないので正直に応える。
「それだけですか?」
「それだけだよ」
 にこっと微笑む。
「今度はこっちから質問良い?」
「はい」
「『沙良』って男では珍しいよね」
「そうですね。どちらかと言えば女性の名前ですね」
 あまり気にしていないようだ。にっこり微笑んで応えてくれた。
「可愛いね」
「何が…ですか?」
「君が…」
「…そうですか?」
「うんv」
「あれ、晃が新しい男連れてる」
 と、大声をあげ一人の男が近づいてくる。
「何、亮太には飽きたのか?」
「げぇ、コック何やってんだよ?」
 此処のコックだった。
「何って、お客様の反応をだなぁ…」
 ふと菅野に目を移す。
「ほぉ、可愛いじゃないか。今度は可愛い系かぁ」
 フムフムと満足そうに肯く。
「秘書だよ」
「秘書?また変わったのか?」
「そうだよ。悪い?」
「悪かぁねぇけど不便だろ?」
「別に。無能なら居ても居なくても一緒だし」
「相変らずキツイね〜」
「あ・・・あのぉ・・・」
 話しに置き去りにされた菅野がか細い声をだす。
「あ、これは此処のコックだよ」
「コレだって。酷いな〜。俺と晃の中だろ?」
「客とコックな?」
 意地悪そうに微笑む。
「こっちは秘書の菅野くん」
「あ・・・始めまして」
「どうも。ホント可愛いねぇv」
「おい、人の秘書に手ぇ出すなよ!!」
「分かってるって。じゃ、仕事に戻るわ。ごゆっくり」
「じゃーな」
 ホントに客の反応を見にきただけのようだ。キョロキョロと店内を見まわしては満足そうに肯いて歩いていく。
「スイマセン、お手洗い…に行って来ます」
 そう云って菅野が席を立つ。
「じゃ、俺も行こうかな」
 スっと立ち上がり菅野に続いてトイレに入っていった。

「やっぱり咲良さんって顔が広いんですね」
 手を洗いながら菅野が言った。
「そうかなぁ?」
 俺は着いて来たものの、何もせずドアのところにずっと立っていた。
「あ、何かスイマセン。連れてきちゃったみたいで…」
「ん〜、いいの、いいの。気にしないv」
「ありがとうございます」
「沙良…」
 俺はたまらず後ろから抱きつく。
「咲良さん・・・?」
 驚いて身動きが取れないらしい。
「大丈夫ですか?気分悪いんですか?」
 オロオロと俺の躰の心配をしだす。
「いや、大丈夫だ」
 菅野の鈍さに少々腹を立てながら俺はゆっくりと手を下ろしていく。
「咲良さんっ。あのっ…」
「大きな声出さないで…。人が来ちゃうから」
「やっ…」
 流石に俺のほうが腕力があったようだ。菅野の抵抗は無いに等しかった。
「だっ、駄目です、咲良さんっ」
「始めてか?」
「なっ…」
 図星だったらしい。顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「松岡から何も聞いてないの?」
 菅野の耳元で囁く。
「何…もって…ちょっ、止めっ…」
「本当に止めてほしいの?」
「あっ、当たり前じゃないですかっ!!」
「ふ〜ん」
 ファスナーを下ろす。
「やっ、咲良さんっ…」
「大丈夫」
 ゆっくりとズボンを下ろす。
「さっ・・・人がっ…」
「来ないよ」
「止めて…」
 涙目になって訴えてくる。
「悪いけど、無理だ」
 スっと手を伸ばす。
「やぁぁぁっ」
「晃っ!」
 勢い良くドアが開き松岡が入ってきた。
「りょ・・・た」
 ドンっと床に叩き付けられる。
「何やってんだよ!!手ぇ出すなって云っただろっ!!」
 口の中が切れたようだ。血の味がする…。
「あ・・・あっ…」
 松岡が混乱している菅野に向き直る。
「ゴメンね。アイツ馬鹿だから。辞めてもらって良いから」
 それだけ云って松岡は俺を抱えてトイレを後にした。

 車内はピリピリとした空気が流れる。
松岡はあれから黙ったまま。俺もしゃべる気になれず口を開く気配すら見せない。
「晃…」
 ようやく松岡が口を開いた。
「何であんなことした?」
 口調がとても冷たかった。今までは何をやってもこんな態度取らなかったのに…。
「別に…」
 大して理由もなかったからそれだけしか云わなかった。

 結局、車内ではそれしか話さなかった。

「今日はもう帰れ。取引先には連絡しといたから」
 そう云って家の前で車を止めた。
「暫くは頭を冷やした方が良い。3日後また迎えにくる」
 そう云って松岡は車を発進させた。

 俺が何をした?
今までと同じことをやってただけじゃないか。
何で今更…。
ワケが分からない…。

 気が付いたら眠っていた。
…スーツのままだ。松岡が見たらまた怒られる…。
「俺が何したって云うんだよ…」
 俺しかいない部屋。
時計の音と俺の息遣いしか聞こえない。
「…らさん」
 最初は気のせいかと思った。
「咲良さん」
 確かに聞こえた。
いや、最悪、幻聴でも構わない。
俺は勢い良く窓を開けた。
「咲良さんっ」
 居た。
「菅野・・・くん」
「咲良さん。ルール破っちゃ駄目ですよ」
 呼び方のことを云ってるらしい。
「沙良くん…どうして?」
「スイマセン、入れてもらえますか?」
「あぁ、ちょっと待って」
 少し視線をずらす。

「りょ・・・うた・・・」
 松岡が少し離れたところに立っていた。
「開けてやれ」
 慌てて玄関まで行って鍵を開けた。

「あの、大丈夫ですか?」
 まず菅野が俺の心配をする。
「菅野くん、心配することないよ。コイツは君を襲おうとしたんだからね?」
 松岡がチラっと俺を見る。
「そ…それは…」
 俺は言い訳もできなくて黙ってしまう。
「確かに…そうですけど…。あの時は僕も混乱してしまって…」
 思い出したのだろう。耳まで真っ赤になっている。
「すまない。辞めてもらっても構わない」
 掠れた声しか出ない。
「えっ・・・あの・・・」
「早とちりするな」
 松岡が話しを繋ぐ。
「オマエはいつも人の話しを最後まで聞かない悪い癖がある…」
 溜息交じりに云った。
「あの、僕…実は咲良さんに憧れて秘書を希望したんです」
「え?」
「オマエが履歴書読まないからだ。まったく…」
 松岡の話しをまとめると、菅野は俺に憧れて秘書を希望したらしい。
そして、最初の日、そのことを松岡に打ち明けたようだ。
…だから様子がおかしかったのか。
ようやく納得できた。
「だから俺はオマエと菅野くんを近づけるのが嫌だったんだよ」
 松岡がはぁぁと大きな溜息をつき、力なくソファーに躰を預ける。
「あの…僕…」
「ちょっと待ってっ!」
 思わず菅野の言葉を遮る。
「え…じゃぁ、トイレで・・・は?」
「いきなりだったんでびっくりしたんです。だって始めて…でしたから」
 そう云って俯く。
「こんな可愛い子がライバルじゃ勝ち目ないからさ。俺は手を引くよ」
 松岡が立ちあがる。
「え、亮太?」
「俺が良かったら戻ってこいよ」
 ポンポンと頭を叩いて部屋を出て行こうとする。
「亮太っ」
 松岡は振りかえることなく家を出て行った。

「あの…ホント、スイマセンでした」
 衣服が散らかった部屋で菅野が呟いた。
「何が?」
「だって、傷つかれたでしょう?」
「うん、傷ついた」
「スイマセン」
「謝ってもこの傷は塞がらないよ」
「そ・・・うです・・・ね」
 菅野に覆い被さる。
「だからさ、沙良自信で塞げよ」
「頑張ってみます」
 頼りなさ気に微笑む。

 俺が手に入れたもの…。
莫大な財産と最愛の人。

 

 この小説は僕の最愛のそぅタンに捧げます(笑)