崩壊(3)
舌打ちを一つすると草野を残し、教室に戻る。
「修二」
途中、誰かに後ろから名前を呼ばれた気がしたが、創られた"桐谷修二"を演じられる自信がなくて、聞こえないフリをした。
授業開始のチャイムとほぼ同時に教室に滑り込んだ。
「セーフ」
俺が入ってきたのを確認したクラスメートたちが騒いだ。
「セーフ!?セーフ!?」
いつものように意味もなくはしゃぐ。
「授業始めるぞ」
ドアが開き、教科担任が入ってきた。
今更ではあるが、置いてきた草野が気に掛かり、授業中はずっと上の空だった。
「しゅ…じ…」
「うわぁっ」
いつの間にか授業は終わり、目の前には野ブタが立っていた。
「あ、彰…」
「ん?」
「一緒じゃ…」
「それが、途中で何処か行っちゃって…」
適当に嘘を吐き誤魔化す。
「修二ー」
「おー。ゴメン、呼んでるから」
そそくさとその場を離れた。
##
草野が好きなのは俺ではなくて、俺が創った"桐谷修二"だということは分かっていた。
だから…壊してやろうと思った。
草野なら…俺の全てを愛してくれると思った。
いつ、どんなときでも草野が呼ぶのは"桐谷修二"だった。
"俺"だけど"俺"じゃない…。
もう一人の"俺"の名を草野はずっと呼び続けた。
胸中には虚しさだけがあった。
こんなに近くにいるのに…手は空を切るばかりだった。