崩壊(1)

「ヤだっ」
俺の目の前には、しかめっ面で抵抗する草野。
「何が『ヤ』なんだよ…」
軽く左右に頭を振り、ボヤくように、投げやるように云った。
「…」
下唇を噛み締め、泣くのを耐えてるように見える。
「草野…」
これ以上怖がらせないように優しく微笑む。

頼むから、もうそんな表情しないで…。
もっと虐めたくなってしまうから…。
もっと壊したくなってしまうから…。
もっともっと…狂わせたくなってしまうから…。

「草野?」
おいでと手を差し伸べる。

「…」
目に涙を浮かべ、フルフルと首を振る。
「彰…」
ピクリと身体が跳ねる。
…解り易いやつ。

ジワジワと草野に近づく。
「黙ってたら解らないよ?」
息がかかるか、かからないかの距離にまで近づく。
「こんなの…修二くんじゃない…」
草野が声を振り絞り云った。
「俺は俺だよ?」
「違う…こんなの…違う…」
弱々しく頭を振る。
「修二じゃない…」
「俺をこんなにしたのは草野だよ?」
そっと頬に触れる。
「ち…がっ…」
草野が不安から嗚咽を漏らす。
ヤバい…。
もう我慢できない。
「彰…」
名前を呼び終えないうちに口付ける。

「ん…ふぁ…」
草野がギュッと俺の制服の襟を掴む。

「彰…可愛い」
細く柔らかい髪に指を絡め、再度口付ける。
「ぁ…んっ…く…」
舌を絡める度、クチュクチュと卑猥な音がし、聴覚を犯していく。

「しゅ…じ…」
草野が襟を掴む手に更に力を込める。
「ん…ふ…っぁ」
もっとと強請る草野を余所に唇を離す。
「しゅ…じ?」
キョトンと首を傾げ、俺を見上げる。
「何?」
ゆっくりと俺の口角が上がっていくのが分かる。
「…」
草野は黙り込み、俯いてしまう。
「なーに?」
腰を屈め、下から草野を覗き込む。
「…何でもない」

遠くで予鈴が鳴るのが聞こえた。