キ・セ・キ

「滝沢ぁ?」

リビングの方で音がした気がした俺は、そそくさと風呂を切り上げてリビングにやって来た。

「滝沢ぁ?いないの?」

若干湿った髪をタオルで拭きながら滝沢を探す。


「うひゃっι」

突然後ろから抱き竦められ、悲鳴とも何ともつかない声が出た。


「翼イイ匂いするvV」
クンクンと犬のように首筋の匂いを嗅ぐ声の主。

「滝沢ぁι」

紛れなく愛しい人の声に心なしか落ち着く。


「ね、翼さん?」

「何ですか、滝沢さん?」

「その格好は何ですか?」

「え?」


風呂から慌てて上がって来た俺の格好は…

上半身裸に下はボクパンと…

あの滝沢さんに
「誘ってる?」
と云わせる程はしたない格好でした///

「誘ってないですよ…///ι」

俺はそれだけ云うのが精一杯でした。



「滝沢ぁが帰って来た気がして風呂から上がってきたんだよ」
ダイニングの椅子に座り、まだ湿っている髪を後ろから拭いてもらいながら足を揺らす。

「翼可愛いvV」

声のトーンで顔を見なくたって滝沢がニヤケているのが分かる。

「滝沢はカッコイいv」

俺は意味なく対抗した。


「今度からはちゃんと服着なきゃダメだよ?」

後ろから顔を覗き込み、滝沢が云った。
「んv」
俺はにっこり微笑みそれに応える。

「はい、出来た♪」
キチンと櫛を通し、頭を撫でてくれる。
「ありがとv」
「どういたしましてv」
それより…と滝沢が続ける。
「飯食った?」
「まだ…」
「じゃ、何か作るわ」
滝沢が立ち上がる。
「俺も手伝う〜♪」
その後に続いた。



「…何も入ってないなι」
冷蔵庫の中を見てポツリと呟いた。
「マジで何もない…ι」
呆れ顔で滝沢が顔を上げた。
「ちゃんとご飯食べてる?」
ジッと顔を覗き込まれ、動揺してしまう。
「たっ、食べてるよっιι」
「そっか」
滝沢は優しく微笑むと玄関へと向かった。
「え、ど、何処行くの?ι」
慌てて付いて行く。
「『何処』って…買い出しだけど?」
さも当たり前の様に云われ、照れくさくなる。
「翼…もしかして…」
滝沢の顔がニヤける。
「狽ネっ、何だよ!?」
「何でもないv」
滝沢は嬉しそうに靴を履き、戸を開けた。



柔らかな夜春の風が頬を撫でた。
「まだ少し冷えるね」
軽く目を細め、消えそうな月を見ながら滝沢が云った。

「明後日あたり新月かな?」
滝沢の横顔は少し寂しそうだった。

「何食べたい?」
「え…えっと」
滝沢に急に尋ねられ、焦る俺。
 我ながら情けない…。
「ふふっ」
そんな俺を見て笑う滝沢。

なんか"シアワセ"とか思っちゃった。
「わ、笑うなよ…ι」
「ゴメンゴメン。可愛かったから、つい、ね?」
「『ね?』じゃなくて…ι」
「何食べたい?」
「や、話し飛びすぎだからι」
そんなやりとりをしながら、近くのスーパーへ行く。



カラカラとカートを押しながら滝沢と並んで歩く。
こうやってると、なんか…夫婦みたい///
「こうやってると、なんか夫婦みたいだよね?」
俺が思った矢先、滝沢が口を開いた。
「えっ…///」
「ぷっ。何照れてんの」
「て、照れてない///」
「はいはい」
軽く流されてしまった。



結局、夕飯のメニューは滝沢がテキトーに決めてしまった。



「俺が持つよ〜」
荷物を持つ滝沢の袖を軽く引っ張る。
「イイって。翼、疲れてるでしょ?」
「俺より、滝沢ぁのが疲れてるよ!」
「大丈夫だから」
そう云って空いてる手で頭を撫でる。
「む〜」
「俺、翼よりタフだしv」
と、含み笑い。
「いや、俺のがタフだね」
「えぇ〜」
「何ι」
「何でもないv」
「えっ、ちょっ、何?ι」
「秘密〜v」



俺は思う。

こうして滝沢と出逢えたことは奇跡だって。

二人でこれからもずっと軌跡を描いていこうって。