GREEN
ベットに俯せで横になり、枕元に在ったサーフィン雑誌をペラペラと捲りながら、松岡が呟いた。
「暫く会うのやめようか?」
重い空気が流れる。
途端に不安になった。
「俺、何かした?」
出来るだけ平静を装いながら、松岡の隣りに座る。
ベットが音を発て軋む。
「別に何もねーけど…」
松岡は変わらず雑誌を捲っている。
紙の捲れる音がやけに耳についた。
「じゃあ、なんで?」
それだけ言うのがやっとだった。
頭の中がグチャグチャして何も考えられない。
「だってさ、あにぃドラマ撮ってんじゃん。俺さ、負担かけたくないって思うんだわ。
ドラマ撮影辛いの知ってるし」
松岡はそこまで言うと枕に顔を埋め
「俺の所為で辛いとかヤだし…」
と、呟いた。
「松岡…。俺さ、負担とか思ったことないよ?確かに、キツいけど、松岡が待っててくれてるって思ったら頑張れる」
松岡の頭を撫でながら続ける。
「それに…」
この先を口にするのを躊躇っていると
「何」
と松岡が右目だけで俺を見た。
「それに…。こんな世の中だから、あとどんだけこんな風に出来るか分かんねーし。だから、可能な限りお前に会って、触ってたいわけ」
「んだよ、それ…。意味分かんねー」
「わっ」
不意に枕が飛んで来て顔に当たる。
「んでんな切ねーこと考えてんだよ!」
目に涙を溜め精一杯俺を睨んでいる。
「松岡…って」
触れようと伸ばした手を叩かれる。
「あにぃのバカっ!!」
それだけ言うと布団にくるまってしまった。
「松岡?」
「…」
どうやら、本気で怒ってるようだ。
「松岡…ごめん」
「…」
「俺、もう出るから。お休み…」
運悪く撮影の時間が迫っていた。
「鍵はいつものとこだから…」
パタンと閉めたドアの音が酷く寂しく聞こえた。
「何やってんだよ俺…」
移動中の車内。
何度この言葉を口にしただろう…。
松岡が傷付くのは分かってたはずなのに…。
今更ながら自分の頭の悪さに腹が立った。
帰ったら笑顔の松岡が待っていてくれたら…。
傷付けても尚、都合のイイことを考えている自分に腹が立った。
あにぃが部屋出て行った後、俺は急いで窓を開け、あにぃを見送った。
気付いてくれなくてもいい。
単なる自己満だ。
案の定、あにぃは俺に気付くことなく行ってしまった。
あにぃの気持ちは痛いほど分かる。
「俺だって…」
ベットに仰向けに倒れ込み手を伸ばす。
決して心の本質には触れられない。
悔しさ
もどかしさ
不安
焦り
俺が俺でなくなっていく。
カチャリ
いつの間にか寝ていたらしい。
ドアの開く音で目が覚めた。
「松岡…?」
「ん…?あにぃ?」
ゆっくり身体を起こし、あにぃを確認する。
「おかえり」
「あ、た、ただいま」
松岡が居るなんて思ってもみなかった。
きっとまぬけな表情をしていたに違いない。
「今、何時?」
目を擦りながら松岡が部屋を見回す。
「あー、昼前…かな?」
「うへぇ…かなり寝てたなぁ…」
寝癖の付いた頭を掻きながら、松岡がのっそりと立ち上がる。
スラリと伸びた四肢。
細い腰。
淡く儚い呼吸。
あいつの全てが俺を狂わせる。
「腹減らね?」
そう言って、ニカっと笑い首を傾げる。
「俺の気も知らないで…」
つい本音が出てしまい、ハッと口を押える。
「何?欲情したの?」
意地悪げに微笑い、松岡が近付いてくる。
「や、そうじゃなくて…」
「つか、俺が欲情した」
問答無用と手を引かれ、抱き竦められた。
「充電〜♪充電〜♪♪」
ぎゅぅと背に手を回し、フンフン鼻歌を歌う松岡が可愛くて、そっと頭を撫でた。
「ごめんな」
昨日の出来事を謝ると
「何が?」
キョトンと松岡が目を丸くした。
「お前な…」
「あはは。冗談だって」
「ちょっとさ、落ちてたわ。どうかしてたんだな…」
「あにぃ」
松岡の腕に力が込もる。
「俺さ、まだ全然ガキだけど、多分…だけど…、ちょっとは…あにぃの役には立てるはずだからさ…」
「松岡…」
「だから…あにぃ…一人でどっか行かないで…」
少しだけ松岡の気持ち分かった気がする。
だけど
「それさ、俺の科白な?」
俺だってずっと不安だったんだ。
松岡が遠くに行っちゃうんじゃないかって…。
「行かない、行かない。つか、行けない?」
「ん?」
「俺、あにぃ無しじゃ、無理だから」
「なっ、ばっ!」
「ひゃはは」
「なんかさ…」
「何よ」
取り越し苦労
そんな言葉が過ぎった。
結局、二人とも同じ気持ちだったってことでしょう?
やっぱり
「「取り越し苦労!」」
二人で指指して、叫んで笑って…。
凄く暖かいな…。
忘れてたけど、゛幸せ゛ってこんな感じっしょ?
大丈夫だよな?
俺等ならさ
多分、きっと
永遠ってさ、リアルじゃないけどさ…
在りだよな?
今は只
微笑うお前を瞳に焼付けるだけで精一杯だけど…
いつかちゃんと
…いつになるか分かんねーけど
それまでちゃんと愛してるよ。
-あとがき-
大分時間が経ってからのあとがきで御座います。
素で忘れてました;
んー、達兄の心理=俺の心理って感じで。
うん、ちょっとそんな感じなのですよ。
最近更に拍車がかかって・・・(ゴニョゴニョ
なにはともあれ、お付き合いありがとうございました☆